お名前:小川蘭那(オガワランナ)さん
留学先:トゥルク大学経済学部
留学期間:2015年8月~2016年7月
トゥルク大学のメインビル。ここで1年間、先端の経営学を学んだ
自然豊かな北欧フィンランドで、ビジネスの先端を学ぶ
中学生の頃から、漠然と海外で学びたいと思いはじめ、国際色豊かな高校に進学したことによって、その気持ちが決定的になった小川さん。経済や経営に興味があり、それらを英語で学べる立教大学に進学。今回の留学は、学部内の在学留学制度を利用した。
「北欧は、福祉政策で先進的、デザインが洗練などのイメージがあり、興味があったんです」 アメリカやドイツなど、他国の選択肢が多くある中、学びたかったビジネスイノベーション、アントレプレナーシップについて、専攻できることが決め手になり、フィンランドのトゥルク大学に行くことにした。
首都ヘルシンキから、フィンランド高速鉄道(VR)を利用し、2時間ほどでトゥルクに到着する 大学があるトゥルクは、フィンランド最古の都市であり、また、3つの大学が集まる学園都市という、ふたつの顔がある。街の中心にアウラ川が流れ、トゥルク城やトゥルク大聖堂があり、景観の美しい街だ。この街にある大学では、ビジネスイノベーション他、IT、教育、デザインが専攻できる。
街の中心をながれるアウラ川。夏は川辺で季節を楽しみたい。市民の憩いの場になっている
海岸線の隆起や時代の変化に応じて、増改築されたトゥルク城。外部からの侵入を防ぐため、間取りが 複雑になっている。1280年ごろから建築が始まった。現存するフィンランドの城のなかで、最も古い
英語で学ぶ、最新の経営学「デザイン・シンキング」 「日本にいたときから、英語で授業が行われていたので、英語力ではそこまで落ちこぼれないと思っていたんですけど・・・」
小川さんが選択した最新の経営学は、マスターの生徒が受講する難度の高いもので、20~30名程度のディスカッションを中心にした授業。毎週課題として出されるリーディングは60ページを超えるもので、専門用語を調べるだけでも大変だったという。
「授業で大変だったのは、先生の質問を理解するのもそうでしたが、大学院生のレベルの高さでしたね」英語はもとより、知識量や経験値が多いマスターの生徒と、ディスカッションする授業は、毎回が挑戦だった。
授業風景。トゥルクの群島にあるコテージで三日間の集中講義。地元企業との提携授業で、商品をスウェーデンの市場に進出するためのビジネスプランを6人で考えた
「とにかく、自分の視点で考えて、論理立てて記述する力が鍛えられました。他の授業は、講義を中心にしたものにしたり、バランスをとって選択したので、なんとかついていけましたね」それでも、サークルのイベントが重なったうえ、パソコンが壊れてしまったときには途方に暮れてしまったという。 「同じ寮に住む友人とハイキングに行きました。フィンランドでは、どこの森でも自由にベリー狩りができる、自然享受権というものがあるんです。あとは、ドイツに留学している親友に電話をしました。とにかく気分転換です」
森のベリーときのこを摘むのは「みんなの人権」。トゥルクの群島近く、カーリナにある森で
フィンランドといえば、トーベ・ヤンソン作「ムーミン」。世界で唯一のテーマパークは、 トゥルクからバスで30分ほどの場所にある。夏季のみ営業。ムーミン好きの人は、訪れたい。
トゥルクはフィンランドの中で、3番目に大きな街でありながら、郊外にはベリー狩りやキノコ狩りが楽しめる自然が広がっている。また、1年は4学期に分かれており、学期毎の休みを利用して、ヨーロッパを旅したことも、メリハリになったという。 旅行中は、同じくフィンランドに留学している友人の実家に泊まらせてもらい、ローカルの生活を体験した。この経験は、ヨーロッパについて、もっと知りたいと、興味をもつきっかけになった。 「クラスメートの年齢はばらばらで、25~26歳の人も多く、国際色も豊かで、さまざまな国籍、年齢の友人ができたのが良かったですね。教授との関係もフラットでした」
フィンランド北部、ラップランドでトナカイぞり体験。 トナカイにエサをやったり、サーミ人のお茶会に招かれたりした
また、シャイと言われることが多いフィンランドの人たちとは、日本人の気質と共通するところがあり、親しみやすかったという。 「あと、これはフィンランド人のジョークとしても有名なのですが、パーソナルスペースが広いんです。バス停に並んでいたら、じろっと見られて、列から抜ける人がいたんですね。初めは理由がわからなかったのですが、どうも近すぎたみたいで」 意識して、いつもより広くスペースを取るようにしたところ、うまくいったという。 「同じヨーロッパでも、南に行けば(パーソナルスペースは)狭くなるし、北に行けば広くなる。おもしろいですね」
長い冬を終えた、5月1日の労働節(Vappu)は、学生の記念日でもある。 高校を卒業したシンボルの白い帽子を被った若者が街に繰り出して、お祝いをする
往年の高校生も、かつて卒業式でもらった帽子を被り、共にお祝いをする。 この日は街中が人であふれかえる
フィンランドでの暮らし 「学生寮に入ると、鍋やシーツなど生活に必要なものが一式入ったスターティングパッケージというものを渡されるのですが、それを取りに、車を出してくれました」。 大学に来て、生活面でサポートしてくれるのが、チューターだ。学生一人ひとりにあてがわれる先輩で、銀行の口座開設を手伝ってくれたり、学校のシステムを教えてくれたり、さまざまな相談に乗ってくれる頼もしい存在だ。学校生活が始まり、生活が軌道にのると、チューターにお世話になる回数は少なくなるものの、食事に招かれたり、招いたり、在学中、交流は続く。
学費は交換留学だったため、追加でかかることはなく、生活費のみ。寮費は280ユーロで、食費をあわせ、月々6万~7万円程度で生活ができたという。
「物価は全体的に日本より高いですが、食材は日本と比べ安いものもあったので、工夫しました。あと、学食は2.6ユーロで、学生証を持っていれば、国内どこの大学でも同じ金額で利用できるので、便利でした」
フィンランドでは、セカンドハウスをもつ家庭が多い。海辺や湖畔に、数多くの別荘が立ち並ぶ。 奥にあるのが母屋で、水辺の小屋は、サウナ専用。体をあっためて、海や湖に飛び込むのが気持ちいい
サークル活動以外に、インターンシップを経験した。インターン先のタイル工房は、当初、インターンを募集してなかったものの、自ら売り込んだという。
「アーティストや職人の方が、素晴らしいものを作っても、なかなか認知されないのがもどかしくて。消費者と生産者をつなぎたいんです」。 その工房では、大学で学んだことを生かして、日本語の営業ツールを作ったり、日本の取引先を開拓したり、契約書面をつくったりして活躍した。
「オーナーのミンナさんがバカンス中、自宅を使わせてもらったんですよ。タイルがとても素敵にあしらわれていて、タイルはフィンランドのインテリアに欠かせないものなのだなと感じました」。
ハンドメイドタイルを作っている工房で、オーナーデザイナーのミンナさんらと共に。 作品を購入できるほか、スタッフの指導のもと、タイル作りに挑戦できる
今後の進路について 「フィンランドを通して、ヨーロッパに強い興味を持ちました。ヨーロッパの大学で、引き続き、経営学を学ぼうと思ってます。そのあとは、海外で働いてみたいです」。とはいえ、海外で働くことにこだわっているわけではないという。企業規模や場所を問わず、自分の興味をもったビジネスに従事したいと、将来を語ってくれた。
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