公開:2019-03-11 更新:2019/05/23
2018 年2月12日、平昌オリンピックのフリースタイルスキー男子モーグルで銅メダルを獲得。フリースタイルスキーでは日本男子初のメダル獲得となり、大きな注目を浴びた。メダル獲得をなし得たのは、カナダでの“ 修行”があったからと語る、原選手の留学の日々について聞いた。
小学校6年からモーグルを始め、16歳で単身カナダに。BC州のカナディアン・スポーツ・ビジネス・アカデミー(CSBA)で語学を学びながらトレーニングを重ねる。2018年2月12日、平昌オリンピックのフリースタイルスキー男子モーグルで銅メダルを獲得。現在、日本大学スポーツ科学部競技スポーツ学科に在籍中。
― そもそも、モーグルをやろうと決めたきっかけは?
原 両親がアウトドア好きで、3歳の頃からスキーをやっていました。中でもこぶを滑るのとジャンプが楽しくてカッコよかった。漠然と、将来はオリンピックメダリストになりたいと思っていましたが、モーグルという競技でメダルを目指そうと意識したのは、小学校6年のときですね。
― その後、16歳でカナダ留学を決意されました。僕も、高校からニュージーランドに留学しましたが、大きな決断ですよね。そこまで駆り立てたのは何だったのでしょうか。
原 モーグルがうまくなりたい一心でしたね。いつでも練習できる環境にいたかったので、北海道や新潟など雪国の高校に進学しようと考えていたのですが、両親からカナダ留学という選択肢もあると言われて。当時、カナダはモーグルがとても強く、世界的な大会でもカナダが表彰台を独占しているという状況が続いていました。カナダに行けば自分も強くなれると思って留学を決意しました。
― カナダでの学校生活はどのようなものでしたか?
原 1年間、語学を学びながらトレーニングをし、その後、現地の高校に編入しました。モーグルは、地元のクラブチームに所属しないと練習できません。学校がクラブチームとの交渉をしてくれたのですが、幸運にも地元のクラブチームよりも上位ランクのBC州のチームに入ることができ、最高の環境で練習することができました。
― 留学中、辛かったことはどんなことでしたか?
原 ……すべてが辛いことでした。楽しかった記憶は一つもないですね( 笑)。まだ幼くて精神的にも弱かったし、言葉の壁や文化の違いなど、ストレスを感じることばかりでした。自分の気持ちを伝えるために、というか伝えないと生きていけないので、英語はがんばって勉強しました。
― ホームステイ先はどうしでしたか。ホストファミリーとの楽しい思い出とか?
原 それもほぼないですね( 笑)。とくに食事は、毎日ポテトと肉だけで、一番望みを捨てた部分です。
― 僕もホームステイ先の食事が合わなくて辛い思いをした経験があるのでわかります。辛い日々を乗り越えられたのはなぜですか?
原 とにかくモーグルがうまくなりたかったことと、お金を出して留学をさせてくれた両親を失望させたくないという気持ちですね。
― カナダ人との練習はどうでしたか?
原 レベルが高すぎて、「これじゃあ勝てなくてもしょうがないな」と思い知らされました。でも、多少モーグルが上手だったおかげで、皆が話しかけてくれるようになり、学校よりもクラブチームにいるときが一番英語を話しました。英語力が格段に上がったなと感じたのもクラブチームに入ってからです。
― 英語ができることは、やはりアドバンテージに?
原 英語が話せると、海外の選手とも、あのコースはどうだった?このコースの攻略法は?とか、ちょっとしたことも気軽に話せるし情報も入ってくる。やっぱり英語が話せてよかったと思います。
― カナダ留学は、原選手にとって何だったのでしょうか。
原 〝修行〞ですね。4年半いましたが、遊んだ記憶といえば1度だけナイアガラの滝を見に行ったくらいです。あとは合宿でモーグルの練習をしているか、トレーニングをしているかでした。自分から行動しなければ生きていけないという世界に飛び込んだおかげで、メンタル面は強くなりました。どんな局面でも動じなくなりましたね。もしカナダ留学がなければ、今のような精神力は持てなかったし、メダルも取っていなかったかも知れません。
― 今後の目標は?
原 まず世界選手権で金メダルを取ること。ワールドカップでコンスタントに表彰台に上ること。そして、次の北京オリンピックで金メダルを取ることですね。何事も、がんばらないと目標にたどり着けない。かといって、がんばったから報われるとは限らない。それでも全力でがんばり続けること。がんばっていたら、最終目標には到達できなかったとしても、その手前で報われるかもしれない。別の道が開けるかもしれない。とにかく全力を尽くすことだと思います。
一見、どこにでもいる普通の大学生。いかにも現代の若者らしく実直で、飾ることのない素のままの経験を話してくれたが、言葉の端々に並はずれたストイックさ、物事に動じない強い精神力が感じられた。これが世界で戦う人間の強さなのかと感じたインタビューだった。
(編集長 天野智之)
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