シンガポールの教育制度を知ろう

公開:2020-01-07 更新:2020/01/07

シンガポール1

幼少期から高水準な学習環境が整うシンガポールの教育制度

シンガポールはイギリスの植民地であった名残を多く残す国で、教育もイギリスをモデルにした制度となっています。また、マレー語、標準中国語、タミール語に加えアジア圏ですが英語も公用語。学校では共通語の英語を使われることが多いです。グローバル人材を国を上げて育成しているシンガポールは、人間としての人格の形成をしっかりと行う教育もしています。

とても小さな国土ですが、多くの人種がそれぞれ母語を持ち、お互いを尊重し合って暮らしています。こういった環境から、シンガポール政府は小学校を義務教育にし、人種によって学ぶ機会が損なわれないように配慮しています。

東南アジアの中で一番経済状態の良いと言われるシンガポールですが、この経済成長の背景には、教育水準の高さが関係しているかもしれません。 優秀な人材を育ててきた教育の結果として、経済が成長した可能性は大いにあるでしょう。2016年にOECD(経済協力開発機構)が行った「2015年OECD PISA調査」では、科学・数学・ 読解力の分野のテストが行われ、すべての分野でシンガポールがトップであったという結果が出ています。このように、シンガポールの学生には高水準の教育を受けてきた結果が現れています。

【旧制度】約40年間導入されてきた「ストリーミング制」

ストリーミング制とは、6年生で行われるPSLE (Primary School Leaving Exammination)という、セカンダリースクール(中・高校)進学のための選抜試験によって進路が決まる制度のことです。日本のように、中学受験をしない限り、小学校を卒業するとその学区内の公立中学に自動的に進学するというシステムではありません。シンガポールでは6年生になると全ての生徒が進路を決める試験を受けます。その結果で進学するセカンダリースクールが決まるのです。

しかしこのシステムが、2020年から少しずつ、2024年から本格的に4年をかけて段階的に廃止することが決まっています。

シンガポールでは、PSLEの後も進路を決めるための試験がGCE-N、GCE-O、GCE-Aと続きます。大まかな教育制度は下記の図のよう。とても複雑なのがよく分かりますよね。

シンガポールの教育制度 図

通わせていない親には罰則も。シンガポールの小学校

シンガポールでは、小学校に通う6年間は義務教育です。学習の基礎となるこの義務教育期間である小学校に子どもを通わせていない場合、親は政府から罰せられることもあります。一番大事な基礎力をつける時期にしっかりと学習させる制度が整っているというわけです。 

シンガポールの小学校では、3つことに重点をおいて教育します。

・Subject-based Learning (基礎)
・Knowledge Skills(知識)
・Character Development (人格形成)

Subject-based Learningとは基礎学習のことです。言語、数学、科学、芸術、音楽、社会学などを勉強します。また、英語をしっかりと身に付けることにも重点がおかれています。
Knowledge Skillsとは、知識を高めスキルとして使えるように、具体的な題材に沿ってプロジェクトに取り組み、これらを身に付ける方法のことです。
Character Developmentとは、発達や人格形成のための教育です。人間関係や社会に対しての意識が高くなるように社会性、他人との関わり方などを学んでいきます。

セカンダリースクールとポストセカンダリースクール

シンガポールではセカンダリースクールという、日本の中学校と高校に当たるものが4−5年間あり、その後ポストセカンダリースクール(大学進学準備コース、職業訓練専門学校、ポリテクニック)へ進みます。6年生で受けたPSLEの結果で進学するセカンダリースクールが決まり、下記の3つに進みます。

・エクスプレスコース(スペシャル)
・ノーマル・アカデミックコース(学術)
・ノーマル・テクニカルコース(技術)

PSLEの結果で、点数の良い生徒から希望の学校に入学することができるので、しっかり点数を取っておくことが重要になります。

早期教育の重要性、大学進学できるかどうかは成績次第

シンガポールの教育制度2

エクスプレスコースに進んだ生徒は受ける必要がありませんが、ノーマルコースに進んだ場合には、GCE-N試験を受けます。そこで良い成績が取れると中学5年生となり大学準備コースへ入るためのGCE-O試験を受けることができます。大学を目指す生徒で、PSLEの結果が悪かった生徒へのボーナステストのような感じですね。

その後、大学進学か職業専門学校進学かを決めるGCE-O試験(日本でいうセンター試験)を受け、その結果によって学生たちはそれぞれの進路に進みます。

教師はシンガポールではなるのが難しく、トップの成績を取ったエリートにしかなれない職業です。大学に行って、教師になるというのはひとつのロールモデルとなっています。大学進学をするには、早期教育が大切だと考えられ、シンガポールの子どもたちは早くから塾に通っています。早期に自分の人生を決めてしまうのは、日本ではなかなか考えられませんよね。海外では他にドイツでこのように早いうちに進路を決定するという制度をとっています。

【新制度】2020年から段階的に変わるシンガポールの教育制度

今まで紹介してきたシンガポールの教育制度ですが、実は転換期にあります。現在の教育システムは、早い段階で子供たちを学力によってふるいにかけるので、世界的にも優秀なテスト結果が出ている反面で反対もありました。そういった中で、2019年の3月にシンガポールの教育大臣、オン・イェ・コング氏が教育制度の見直しを発表しました。その結果、シンガポールの教育制度は変更されストリーム制が廃止されます。PSLEの採点システムの変更は、2021年に行われる予定ですが、2020年から新しいPSLEの採点システムを導入し、小学校5年生の成績を対象に評価し始めます。

文部科学省によって現在のエクスプレス、ノーマル・アカデミック、ノーマル・テクニカルと3つに別れていたものが、1つになります。ただし、1つになっても全員が同じものを学ぶということではなく、生徒の能力によって科目ごとにそのレベルが選べます。サブジェクトバンディングと呼ばれ、科目は3つのG1、G2、とG3レベルに別れています。

 

シンガポールの教育制度 図3

この3つのレベルは現行制度のストリームと同じ:G1とはノーマル・テクニカルレベル、G2とはノーマル・アカデミックレベル、またG3とはエクスプレスレベルです。以前の教育制度で全体的にストリームのレベルが別れていますが、これからのバンディング制度は科目の能力によってとれるレベルが変わります。

今回の教育制度変更には3つの理由があります。

1つ目は、生徒それぞれ得意分野や科目によって能力が異なるからです。例えば、ある生徒は科学が得意だが言語が苦手、などその場合には、科学では難しいクラスを選択できるようになります。

2つ目は、現行の教育制度では小学生卒業時に決められたコースから出られないという点です。例えば、ノーマル・テクニカルの生徒はPSLE後に学力が飛躍的に伸びても、限界を作られてしまいます。

3つ目は、自分の得意科目、興味ある科目を選択でき高いレベルが学べると、学ぶモチベーションも上がると考えるためです。

実際に、2014年度から12校に試験的にこのシステムを始めたところ、科目によってはエクスプレスレベルの生徒とノーマルレベルの生徒に違いがなかったそうです。

これまでエクスプレスコースへ進むには、すべての教科で高得点が必要でした。しかし、今後は得意な科目をより伸ばす教育になっていくでしょう。

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